メディアの未来


1970年代のある夜、
若きブルース・スプリングスティーンのライブを見た
ある音楽ライターが、興奮気味に雑誌にこう書いた。


  僕は自分のロックンロールの過去が
  一瞬のうちに目の前を通り過ぎていくのを見た。
  そして僕は大変なものを見たのだ。
  僕はロックンロールの未来を見た。
  その名はブルース・スプリングスティーンという。


その夜のライターの気分を、今の私は理解できるような気がする。


今週の木曜の夜、Ustream(ウェブの生放送)で
ライターの佐々木俊尚氏とソフトバンク孫正義氏の対談を見て
(インターネットの未来がテーマ)
私はメディアの未来を見たような気がした。


打ち合わせのない「ガチンコ」の生中継。
テレビと違って途中でCMは入らない。
(ただし15分のトイレタイムが数回入る)
そして放送時間に制限はない。
(夜中まで5時間ほど対談は続いたようだ)


22時過ぎには2人の座るテーブルに
美味しそうなワインと料理が用意され、
孫さんはワインを飲んで酔い始めたように見える。


どんな話が飛び出すか分からない。


中継画面には、視聴しているユーザたちのコメントが
ものすごいスピードで次々と更新されてゆく。
(数が多すぎてほとんど読めない)


14万人を超える人たちがこの番組を視聴していたが、
それはテレビの視聴率よりもはるかにリアルな数字であり
また画面上を滝のように流れるコメントの数が
それをいっそうリアルなものにしていた。


おそらく多くの視聴者は
ストリーミング中継を見ながら、
同時にツイッターで他の視聴者のツイートもチェックし、
自分の感想をツイートをしていたはずである。


何かが起こりそうな期待感と、
時代とメディアが大きく変わりつつあり、
自分たちがその歴史的な場面を目撃しているのだという緊張感。


そんな空気をはっきりと感じることができた。


対談の内容はそれほど劇的なものではなかったかも知れないが
もうかつての一方向的な「テレビの時代」が終わりを告げ
メディア・イベントに自分たちも参加できる時代になったことを
生々しく感じ取った夜であった。