涙のお別れ


昨日(土曜日)は、ゼミの1年生がオーストラリアに
海外研修に出かける日だったので
名古屋駅(新幹線)まで見送りに行ってきた。


新幹線のホームに行くと
真っ赤で大きなスーツケースの脇に
不安そうな顔をした学生が。


初めての海外旅行。
新幹線に乗るのも初めて。
英会話も得意ではない。


不安で泣きそうな顔をしていたが
自分で選択した研修旅行だし
ふだんは好奇心と積極性にあふれた学生だし
たとえステイ先のファミリーと言葉が通じなくても
きっと楽しい思い出を作って帰ってくるだろうと思う。


やがて、トイレに行っていたという母親が登場し
初対面の挨拶を交わす。
「きっと大丈夫ですよ」と声をかけたが
その根拠までは説明できなかった。


「海外では挨拶が重要だから、まず最初に──」
と説明していると、彼女はなにやら上の空。
「あれ、グランパスの選手じゃないですか?」と言う。


見ると、日に焼けたスポーツ選手らしきグループが
同じ服装でホームの待合室に出入りしている。
私もグランパスの選手についてはそれほど詳しくないのだが
そして彼女もそれほど詳しくないようだったが
やがて誰もが知っている選手が登場。


日本代表のゴールキーパー、N崎である。
さすがに彼だけは知名度が高く、
ホームにいた何人かがサインを求めていた。


すると、ゼミ生の彼女も、
「サイン、もらってきます」と言ってN崎に近寄り
旅行中の注意事項などを書いたノートを開いて
その片隅にちゃっかりサインをもらってきた。


その積極性があれば、きっとオーストラリアでも大丈夫
と私は心の中でつぶやく。


東京行きの「のぞみ」がホームにやってきて
「新幹線って、スーツケース置くとこある?」
と悩んでいた彼女だったが
乗った瞬間に、目の前にいた車掌さんをつかまえて
疑問を解決していたようである。


その積極性があれば、きっとオーストラリアでも大丈夫。
と私は再び心の中でつぶやく。


窓際に座った彼女は、ホームで手を振る母親に向かって
泣きそうな顔を見せていたが、
私は少し安心していた。


でも、半べその彼女の顔を見ていると
年のせいですっかり涙もろくなった私は
つい自分まで泣いてしまいそうになるのだった。
(ぜんぜん泣く必要はないのだけれど)


今頃、彼女はもうオーストラリアで、ホームステイを始めているはず。
そして、涙ではなく、笑顔を浮かべて
私のことなんか忘れて楽しんでいるはずである。


帰国後の笑顔が目に浮かぶようだ。